【Before The Huddle 第8回】
主将 神谷康治「思いを馳せる」
南山高校より中央大学に入学。
中学から始めたアメフトは今年で10年となる。
高校時代主将を務め、南山高校史上初となる関西大会ベスト4という快挙を成し遂げた。
大学では3年時にDLとして日本代表に選出。
ラクーンズには同じ南山高校出身として藤原(1年 OL)、綾田(4年 OL)、丹下(4年 RB)、が在籍している。
今年度、圧倒的なカリスマ性でラクーンズを牽引。
(4年 主将 背番号52 174cm 115kg)
1.「愛されるチーム」
ラクーンズが求めるチーム像に愛されるチームというチーム理念があります。
「見る人たちに夢や感謝を与え、真の勝利者となれるチーム」と定義されています。
愛してくれる人がいて成立するものなので、複雑な要素も絡み、そう簡単には辿り着けるものではないです。
しかし、愛されるチームとなる上で一番重要なことは、部員ひとりひとりが自分達のチームを愛することだと思います。
「愛されるチーム」というチーム理念を掲げる組織のキャプテンとして、僕が何を考えてチームビルディングしていたか。
その一部をこのBefore The Huddleでお話しできたらなと思います。
2.「役割を持ってもらう」
「自分の役割は何か考えろ。」
この言葉は常々言い続けてきました。
今年は、ひとりひとりに役割をもってもらうことを特に意識してチームをつくっています。
自分が活躍できる場所があると多くの人が思えているチームは強いと思います。
チームに自分の居場所が明確にあるほど、そのチームに貢献したいという気持ちが大きくなり、愛着が湧きます。
逆に、自分の存在意義を見出せずに「代わりはいくらでもいる」「いなくても変わらないんじゃないか」と思ってしまうと、チームへ抱く特別な感情や忠誠心がなくなり、その組織を好きではなくなってしまうと思います。
そこで明確な役割を持ってもらい、そこで貢献できるように考えました。
筋トレリーダー、1年生のヒット育成担当、防具管理リーダー、盛り上げ隊長、挨拶リーダーなど、その役割はどんなものでも良いです。
多少やり方を間違えたとしても、チームの為になにかできることはないかと必死で探し出したことなら、そう思って行動してくれたということが既にプラスだと思います。
あとで一緒に軌道修正をしていけば良い話です。
この組織において自分が担う役割を、全員が理解し、そして最後まで責任を持って遂行することができる。
これは、強い組織になる上で大事なことなのではないでしょうか。
3.「1年生に雑用はやらせない」
2019年度ラクーンズでは、今まで1年生がやっていたような練習、ミーティングの準備や片付けなどの雑用を4年生がこなしています。
なぜそれを行うのか。簡単に説明したいと思います。
試合を想像してみて下さい。
自分は試合経験豊富な4年生、と考えてください。
上級生の負傷により、初めてスターターになり、緊張でガチガチになった1年生を試合前に見かけたとしましょう。
すかさず声をかけると思います。
自分が下級生だったときのことを思い出し、少しでも気負わずにのびのびプレーできるように、どのような言葉をかけるか考えます。
組織全体を見渡した際に、パフォーマンスが遺憾なく発揮されるよう、余裕のある者が余裕のない者に対して気を配り、全員の能力を引き出す。
それは、余裕のある者がとるべき当然の行動であります。
しかし練習ではどうでしょうか。
1年生が準備、片付けなど雑用をして、2年生以上は何も気を使うことなく練習をこなす。
これは僕の考える余裕のある者がとるべき行動ではありません。
試合では当たり前のようにできることが練習ではできない。これではいけません。
ただ、上級生という自分の立場にあぐらをかいて楽をしたい、もしくは、自分が1年生の時に苦しい思いをしてきたから、同じような思いをさせたい。
そんなところではないでしょうか。そんな愛の無い自分本位な行動はなにも生むことはありません。
チーム活動の大半を占める練習こそ、余裕のある者が、余裕の無い者をフットボールに集中できるような環境を整えてあげなければいけないのでは無いでしょうか。
このチームでやることにはいくつか理由があるのですが、その1つを紹介します。
ラクーンズはT O P8の中でも特に未経験の割合が多く、今年のディフェンスのスターターを見てもらえればわかりますが、半数以上がフットボール未経験です。
今後もラクーンズはフットボール未経験者のアスリートがチームの主力になってくると思います。
そういった未経験も多くいる1年生に、とにかくフットボールに集中して欲しいという思いがありました。
未経験者は特に、大学のフットボール1年目で、何を学び、どのくらい上手くなれるかというのが今後のフットボール人生の土台となり、プレイヤーとしての器を決めると思います。
1年生の伸びしろは無限大であり、ラクーンズの宝です。
1年生という大事な時間を雑用に縛られず、そんな大事な時期こそ、アメフトにとことん没頭して欲しい。
そして、フットボールを好きになり、ラクーンズを好きになり、そんな彼らが上級生になった時には入ってくる1年生へ同じ思いをさせてあげて欲しい。そう願っています。
なので、2019年度ラクーンズが終わっても続けて欲しいです。
チームの上に立っている上級生は、自分がチームの為、そして後輩の為に何ができるのかを考え続けなければいけません。
そして、チームの文化だからということすら言い訳にせず、瞬間瞬間、このチームとついてきてくれる後輩たちの為に何かできることはないかという感覚を研ぎ澄まして持って欲しいと思っています。
4.「人間的成長」
「人間的成長」という言葉があります。
ラクーンズではあまり聞くことのない言葉かもしれません。
特に意識しているわけではない、また重要視していないのではないか、と思われるかもしれませんがそんなことはありません。
ラクーンズ・マインドというのがあります。
1つ目が勝利に対する強い思いを持ち続け行動する「信念」
2つ目が仲間を信じ自分を信じ仲間から信頼を得る「信頼」
3つ目が勝利のために自己の果たすべき責任を全うする、ラクーンズの一員としてふさわしい行動をとる「責任」
4つ目は自分が自分であることを名誉とし、またラクーンズの一員であることを名誉とし、それらの尊厳を高める行動をとる「誇り」
最後に、人を支え人に支えられていることを知り、謙虚な気持ちを忘れずに礼を尽くす「感謝」
代々引き継がれてきたこの5つのラクーンズ・マインドを胸に刻みながら日々努力を続ければ必ず立派な人間になると思います。
ラクーンズ・マインドを胸に刻んで日々を過ごすこと、それが「人間的成長」だと考えます。
アメフトを構成する要素として フィジカル、ファンダメンタル、アサイメントの3つの要素があります。この3つの土台を支えているのが、このラクーンズマインドだと考えています。
この3要素の土台となる重要なマインド、すなわち「信念」「信頼」「責任」「誇り」「感謝」を日々意識し、追求することが一流のプレーヤーになる欠かせない要素であると考えます。
この「土台」がないと、いくらフィジカル、ファンダメンタル、アサイメントが上にのっても、「こいつの為に体を張りたい」とはなりません。
フットボールは自己犠牲の精神の上に成り立つスポーツなので、人間的な部分で隣の人間を心から信頼できていないと、追い詰められた場面で自分勝手なプレーをしてしまいます。
ラクーンズの一員である以上、「信念」「信頼」「責任」「誇り」「感謝」とはなにかを考え続け、それらを大事にしている行動が取れているかを自分を律しながら見直すことが必要なのではないでしょうか。
(世界選手権時の写真 背番号92番が神谷)
5.「マズローの欲求5段階説」
マズローの欲求5段階説をご存知でしょうか。
簡単に説明させて頂くと、人間の欲求を5段階に分け、低層階の欲求が満たされるとより高層階の欲求を欲するもので、最終的に「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」とされています。
アメフトにおいては3段目以降が大きく関係すると考えます。
3段目は「社会的欲求」であり所属や帰属の欲求とも言われます。
つまりラクーンズという組織に所属していることで満たされる欲求だと言えます。
この段階では、ただ組織にぶら下がっている人間も含みます。
なんとなく練習に参加して、何か成長した気になって、満足げに帰る。
このようなレベルの人間はこの段階で心身ともに成長が止まると思います。
そこで「各々の組織に対する存在意義」が重要となります。
組織において、自分の役割を明確にし、その範囲内で努力をして成果を出す事が組織に貢献することではないでしょうか。
自分が今、この組織に最も貢献できるのはどの役割なのか。
それを認識する事がこの段階を越える第一歩です。
4段目は「承認欲求」です。
これはよく耳にすると思います。
与えられた役割の中で組織に貢献し、それの対価として他者からもっと評価されたいと思うことです。
5段目は「自己実現欲求」です。
これは、自分の考えやそれを構成する価値観に基づいて、自分のなりたい姿や理想像を常に追い求め、自分の持つ能力を最大限発揮して、もっと成長したいという欲求です。
ラクーンズにとってはここからが重要だと思っています。
僕は、組織という観点から考えるとこの5段階欲求の上に「他者への貢献欲求」という6段階目が存在するのではないかと考えます。
実際、自己の理想を追い求める為にフットボールをする部員は少なからずいます。
「この組織の成長の為に自分は他者に何を与えられるか。」そして、「自分がどういう人間になれば周りへ良い影響を与えられるのか。」
自分の理想を追い求めた上で、それをチームや他者の理想という観点から考えることができる人を増やせればこのチームは更に良くなると思っています。
チームを構成しているものは人間なので、誰かが変わって、それを波及させていかないとチームが良い状態へ変わることはありません。
6.「リーダーシップとタンクトップ」
「勝ちたいと口では言っているのに、振る舞いや姿勢、取り組みがついてきてない奴は、真夏日にパーカーを着てうちわで仰ぎながら暑い暑いと言っているようなものだ。
まずお前がタンクトップを着てみせてやれ。最初に勇気を持ってタンクトップを着られる人間。それがリーダーだ。」
これは南山中高アメフト部の顧問、そして恩師である朝内大輔先生に僕が高校アメフト部の主将になった際にして頂いたお話で、僕のリーダー論の根幹になりました。
(南山高校時代の神谷)
僕は組織が目標へ向かって進んでいく際に課題解決する時、物事の本質を捉えて恥を捨ててでも最初に行動できる人間がリーダーとして相応しい人物であるということだと捉えています。
真夏でもパーカーを着ているのが当たり前で普通だという文化が根付いていた場合、最初にタンクトップを着るのは容易なことではありません。
はじめはバカにされるかもしれませんし、裏で陰口を言われるかもしれません。
それでもタンクトップを着ることが涼しくなる方法であれば、みんなに着てもらうしかないわけです。
では、どうしたら皆がタンクトップを着てくれるのでしょうか。
人によって着てくれる方法は違います。
ちょっと話せばすぐにいいなと思って着てくれる人、話さずともあれは涼しそうだと思って着てくれる人、パーカーの袖を引きちぎってでも体感してもらわないといけない人、自分以外が全員タンクトップを着てようやく自分も着ようと思える人、組織には様々な人がいると思います。
どうすれば気付いて行動してくれるか、一人ひとりに合ったアプローチの方法を考えるのはリーダーの大事な役目だと思います。
一人ひとりの考えを理解した上で、押し付けるのではなく尊重しながら、信念を貫き、多数派にしていく。
「自分が正しいと思ったことを、最後まで信念を持って貫く」ことがとても重要なのではないでしょうか。
リーダーシップは才能だと言われることがありますが、それは違うと思います。
強い思いさえ持っていれば、それはリーダーです。気づけば自分が中心になり、ムーブメントが波紋のように広がっていくというのを感じることができると思います。
(photo by Fuse Masayoshi)
7.「真の男」
最後に
僕は今までの人生の中で、朝内先生や松永監督、蓬田HCという尊敬する真の男である男達に出会うことができ、様々な考え方や大事にしなければならないものを学ぶことが出来ました。
「勝ちたいから、この人の言うことを聞こう。」
これではまだ弱いと思います。
「この男に惚れた。だから勝ちたいんだ。」
真の男は僕にそう思わせてくれました。
そんな男になるのが、僕の目標です。これからも日々勉強しながら生きていきたいです。